【スポーツ】フットボール・クラブは誰のもの?

日本でイングランドのサッカー・クラブといえば、やっぱりこのクラブでしょうか。かつて香川選手も在籍したこともあり、日本で圧倒的な知名度を誇っているのはやっぱり「赤い悪魔」。

マンU 世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ

マンU 世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ

この本の副題は「世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ」。マンチェスターでは、「本当のマンチェスターのクラブはシティだけ」という人は今でも多いようだ。それは、オーナーの財力でもってすっかり強豪のビッグ・クラブになりながらも、今でもローカルな雰囲気を残している(悪く言うと「垢抜けない」)シティと比較すると、マンUマンチェスター・ユナイテッドの略称)はすっかりグローバルなクラブになってしまったことも関係しているのかもしれない。オールド・トラフォードのスタジアム併設のメガショップに行くと、イギリス人のガードマンに「ニイハオ」と挨拶され、「日本人なんですよ」と言うと、すまなそうに"I'm very sorry."と言われたことがある。確かに、マンUメガストアにはヨーロッパやアジアからの観光客を含む多くの外国人客がいたが、街の中心地にあるシティのショップにはイギリス人らしきお客さんだけだったような記憶もある。これは、あきらかに、クラブの経営戦略の違いから生じたものであることが、本書を読めばよくわかる。
同様なことは、イングランドの他のクラブ、アーセナルとかチェルシー、スペインのバルサレアル・マドリーなどの経営方針にも見て取れる。その地域や国内だけでなく、ワールドワイドにファン層を開拓していこうという強い意志を伺うことができる。「グローバルなファン層の開拓→ユニフォームなどのグッズ売り上げによる増収→補強費用への補填→有名選手の獲得→チームの強化→さらなるグローバルなファン層の開拓」というサイクルがうまくまわることにより、ビッグ・クラブとしての運営を維持しているのだ。彼らにとってフットボールはビジネスなのである。確かに資金繰りに苦しんで衰退していくクラブは多く、増収を図りながらチームを強化していくのがクラブの経営者の手腕なのではあるが、本書を読みながら、「やっぱり、それだけではないんじゃないの?」という疑問がどうしても生まれてくる。古い感覚なのだろうが、サッカーのもともとのクラブの理念は「ローカリズム」にあるのだから。

"Support Your Local Club Not Sky Sports"というこのバナーは、現在、プレミア・リーグの放送権をほぼ独占している有料テレビを批判したものだが、この言葉にはいくつかのニュアンスが含まれている。ひとつは、莫大な放送権料にクラブの運営を頼るようになってしまい、お金の分配がクラブの強弱に偏り過ぎてしまうことで生じてしまっていることへの批判。それから、ケーブル・テレビが試合放送を独占することによって、合わせてチケット代の高騰が起こってしまう。では、スタジアムには行けないけどテレビで観ようかと思っても、高い視聴率が取れそうなビッグ・クラブの試合しか放送しておらず、地元のクラブよりも放送される頻度が高いビッグ・クラブのファンが増えるのは当たり前である(かつての巨人のことを想像するとわかりやすい)。さらに、ケーブル・テレビが放送権を独占しているため、テレビの地上波で観ることができない人たちさえもいる。つまり、自宅で無料でサッカーの試合を観ることさえできないのだ。こんな事情から起こったのが、先日のバイエルン・ミュンヘンのサポーターの抗議行動。これには試合相手のアーセナルのサポーターも賛同したとか。詳しくは以下のサイトを参照してください。(http://news.livedoor.com/article/image_detail/10731029/?img_id=9276520)。

果たして、サッカーはグローバルなものなのか、ローカルなものなのか? 昨今の経済事情をなどを考えると、グローバル化をしていく方が変わりゆく現状にうまく適応していることはよくわかる。でも、やっぱりローカリズムこそがフットボールの魅力であり、あるべき姿なのではないかと思ってしまうのは、やっぱり古い人間だからだろうか。個人的には、スペインだと、バルサのようなグローバルなオールスター軍団よりも、アスレチック・ビルバオのようなクラブに肩入れしてしまう(バスク地方にあるアスレチック・ビルバオバスク人選手しか採用していない)。
マンUもかつては育成には定評のあるクラブであり、ベッカムなどが活躍していた頃までそれなりの骨太な魅力もあったが、現在のようなグローバルなスター軍団になってしまってからは、正直、そういう魅力はすっかりなくなってしまった。2年前、アジア・ツアーの一環で日産スタジアムにおいて横浜マリノスと対戦したが、結果は3−2で我らがマリノスの勝ち、ただ最優秀選手賞は大した活躍もしていない香川選手に与えられるという顛末で、スタジアムではブーイングどころか大きな失笑が起こるという、なんとも滑稽な事態も起こってしまうのだ。私もスタジアムにいたが、あまりのスポンサーの「大人の事情」ぶりに苦笑いをしてしまった。この件については香川選手自身のコメントがすべて。「あれは…すごくマリノスの方々に申し訳ない。真剣勝負の世界ですから。そこは日本の歴史(の浅さ)っていうのを感じます。そこに関しては自分自身、納得いっていない。真剣勝負の世界ですから、しっかりした判定ができてもいいんじゃないかなと思います。」
http://matome.naver.jp/odai/2137460220936021201
ということで、あまりマンUを好いてはいない人間が読むと、マンUが絶賛されればされるほど、あまのじゃく的に「本当にそうかいな?」と思ってしまうのであるが、良きにしろ悪しきにしろ、現在の日本のみならず世界のサッカー界が抱えている問題が浮き彫りになってくる。サッカーのファンなら考えてみなくてはいけない問題を提示してくれているのかもしれない。