【絵画】やっぱり猫が好き!?

私の知人にも猫好きの人は多く、「いかに猫が好きか」という話を直接に聞く機会はほとんどないものの、SNSなどの投稿にはしばしば強い猫愛を感じさせる写真の投稿やシェアを見かけることが多い。近所の野良猫の糞害との戦いに明け暮れている私でさえ、そういう写真を見ると、不本意ながら「かわいい!」と思うこともしばしば。糞争いの敵なのにかわいいと思うなんて、日和ってはダメだ、そんなことを考えながら読んだのが、イギリスの画家であるルイス・ウェインに関する、漱石の『我が輩は猫である』にも影響を与えたのかも、ということを紹介した次の本。

ルイス・ウェインは、19世紀末から20世紀初めにかけてイギリスやアメリカで猫をはじめとする動物画の分野で活躍した画家。生涯について読んでみると、決して恵まれた環境にあった人ではなく、苦労しながら、波乱万丈とも言える人生を送った人であった。お父さんが亡くなった後は、妹5人を養うために得意の絵で生活費を稼ぐ必要があった。当時のヴィジュアルのマスメディアの代表格であった挿絵新聞『ロンドン・イラストレーティッド・ニューズ』の動物画などを担当した。また、自分の家に住み込んでいたガヴァネスと結婚したことで、家族と疎遠になった時期もあるという。
病気の妻を慰めるために飼った猫をモデルに絵を描いたことから、一連の猫画(猫をモデルにした絵画)が描かれていくことになった。そして、それはイギリスの人であれば誰でも目にしたことがあると言われるくらい広く愛されるようになったものの、現実的な経済感覚や野心がなく、相当数の絵、グリーティング・カードやポストーカードが売れたにもかかわらず、彼の生活は豊かなものにならなかったという。
不勉強なせいでウェインの名前は知らなかったが、確かにその作品は見たことがあった。中でも有名なのは、擬人化された猫たちで、これは猫の生態を描いたものではなく、「猫社会のホガース」とも言われたように、社会諷刺を目的としていることは明らか。本人も次のように言っている。

「猫たちを使って、人間のさまざまな悪癖や、欠点や、情熱や、楽しみ、政治以外のあらゆるものを表現する。そして、私は、その絵が目的とする教訓を明らかにしたり、絵に語らせたい物語を飾ったりするために、欠陥を誇張し、特徴を強調し、題材を精一杯利用する権利を主張する。」(pp. 38-39)
ウェインの絵画は時期によって大きく変化していくが、晩年は、精神を病んで入院生活を強いられることになるが、それでも絵を描き続けた。その時期の絵には統合失調症の兆候を伺うことができるとしばしば指摘されているが、非常に特徴的である。どこかサイケデリック・アートを連想させるもので、個人的には諷刺画の頃よりもシュールさに深く惹かれるところがある。

19世紀以降、イギリスでは読者層の拡大や印刷技術や進歩などもあり、挿絵つきの物語や小説などがたくさん書かれ出版されることになるが、ウェインのポストカードなどもその流れに入るものであろう。ただ、ウェインの描く猫たちは、いつの時代に書かれたものであっても、単にかわいいだけではなく、ある種の毒も含んでいることを感じ取りることができる。そういうところがイギリスの画家らしいところかもしれない。
そんなルイス・ウェインの作品をまとめて楽しむことのできる最適な入門書。