【歴史】イギリスの隠したい過去…

どこの国にも隠したい過去というものがあるもの。特に、一時的に覇権を握ったかに見える栄えた時期がある場合には。イギリスもその例外ではなく、いくつか触れて欲しくはないと考えているらしい過去がある。

例えば、2007年、奴隷貿易廃止法案可決200周年を迎えたときのイギリス。当時のブレア首相は、イギリスが国家ぐるみで奴隷貿易に関与したことについて「遺憾の意」を表しはしたものの、結局、明確に「謝罪」はしなかった。「遺憾の意」と「謝罪」の間には大きな隔たりがあるようで、どこかの国と同じですね…。なぜ、「遺憾の意」を表しても「謝罪」はしないのか。賠償責任が生じるからなのでしょうか。奴隷貿易のイギリスの関与については以下の本が参考になります。「アメイジング・グレイス」の作詞者の牧師が、実は元奴隷商人だった…なんて、驚きの事実もわかります。

奴隷制を生きた男たち

奴隷制を生きた男たち

そんな奴隷貿易の歴史とともにイギリスが認めたくないもうひとつの歴史を扱ったものとして、マーガレット・ハンフリーズ著『からのゆりかご―大英帝国の迷い子たち』都留信夫・都留敬子訳(日本図書刊行会)があります。「児童移民」の歴史です。

からのゆりかご―大英帝国の迷い子たち

からのゆりかご―大英帝国の迷い子たち

  • 作者: マーガレットハンフリーズ,Margaret Humphreys,都留信夫,都留敬子
  • 出版社/メーカー: 日本図書刊行会
  • 発売日: 1997/07/01
  • メディア: 単行本
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本書は、「休暇旅行に行くのだと思っていた少女が連れてこられたのはオーストラリアだった。児童移民という英国の最も恥ずべき秘密に挑んだ一女性ソーシャル・ワーカーの奮闘。幼い棄民たちの物語」と紹介されている通り、「児童移民」の問題を扱った告発の書です。
児童移民というのは、イギリスの貧しい家庭に、子どもたちをオーストラリアなどの裕福な家庭に養子に出させることを勧めた活動で、政府や教会関係者が積極的に関わったものです。ところが、実態は、過酷な労働に従事させられたり、性的な虐待を受けるなど、説明とはまったく異なるものでした。こうした活動を政府や教会が行っていたことそのものも驚きですが、このような非人道的な政策が1970年代まで公的に続けられていいたことを知れば、さらに驚くのではないでしょうか。このことを初めて告発したのが本書です。

このことを題材に映画『Oranges and Sunshine』も作られ、ブラウン元首相が正式に謝罪もしています。詳しくは、下記ホームページを読んでください。

http://www.cinematoday.jp/page/N0022736

フェリスの英語のテキストにも記事がありましたが、オーストラリアでは、他にも、「進んだ文化を学ばせるため」との名目で、先住民の子どもたちを親元から隔離して育てるという政策がとられた時期がありました。親から引き離された子どもたちは、強制労働をさせられたり、虐待を受けたり、中には養育放棄で見捨てられた子どもたちもいたようです。この政策には、先住民族の共同体を破壊し、文化を根こそぎになくしてしまうことが本当の狙いであったことがわかっています。この政策のために、先住民のひと世代が失われたとさえいわれているほど深刻な結果を招きました。

こうした出来事は、考えるべき多くの問題を提議してくれます。貧困、子どもの養育、植民地、子どもへの虐待、子どもの人権、宗教と救い…。相変わらず、人間の社会は多くの問題を抱え続けていることを改めて認識させてくれます。

イギリスといえば、英語の勉強のための留学、紅茶に紳士、歴史と文化、古い建物ときれいな街並み…しか思い浮かばない人こそ、ぜひ、本書を読んでみてください。