【雑考】北九州市(小倉)に行ってきました

学会の来年度の大会の会場校の視察と打ち合わせのために北九州市に行ってきました。北九州市立大学はキャンパスもきれいで、とても素敵な感じの大学でした。5千人以上も学生さんがいることを伺ってびっくりしましたが…。地方大学では大きいですよね。しかし、「北九州市」というよりも、例えば、「小倉市」や「門司市」といった方がしっくりくるのは、私が古い人間だからでしょうか。今回は、時間もなかったので小倉駅の周辺だけでしたが、升目状にきれいに並んだよい意味で「昭和」を感じさせる雰囲気の街でした。個人的には、旦過市場の雰囲気と匂いに強く惹かれました。
少しばかりの空き時間を利用して、小倉城の近くにある松本清張記念館に寄ってみました(http://www.kid.ne.jp/seicho/html/)。松本清張といえば社会派の推理小説という印象が強かったのですが、展示を見ていて改めて驚いたのは、扱っているテーマがものすごく広いこと。歴史、政治、宗教などなど、その作品のテーマには本当に限りがありません。私も熱心な読者ではないので、実際に読んだことがあるのは有名な『点と線』くらい。恥ずかしながら…。

点と線 (新潮文庫)

点と線 (新潮文庫)

今回の展示を見て、他にも読んでみたい作品が見つかりました。出口王仁三郎に興味を持っていろいろと関連本を読んだ時期もあったので、新興宗教の社会問題を扱った『神々の乱心』は特に面白そうです。
神々の乱心 上 (文春文庫)

神々の乱心 上 (文春文庫)

他にも、高井戸の自宅の一部を再現した展示もあり、のぞき見ることのできる書斎には興味津々でした。それにしても、清張のようなタイプの作家の取材量のすごさにはひたすらに驚かされました。例えば、皇室の晩餐会のメニューの料理の詳細について、ホテルニューオータニの料理長に問い合わせたものへの返事などもありました。創作の大変さを垣間見た思いです。
グレアム・グリーンは私の好きなイギリスの作家のひとりですが、面白いことに、彼は自ら自分の作品を「本格小説("novel")」と「娯楽小説("entertainment")」に分類しています。日本では、小説を「純文学」と「通俗小説」に分けることが多いのですが、清張のような社会派ミステリーなどはその間の「中間小説」という言葉で分類されています。「中間」という言葉の曖昧さというか、白黒をはっきりさせない妥協的な表現はまさに日本人らしいといえばそうなのですが、考えてみると、よくわからない言葉ですよね。グリーンは自分の作品を自分で分類しましたが、清張は自分の作品が勝手に「中間小説」と呼ばれることには反発を感じていたようです。「小説には、純文学的なものか、通俗小説的なものか、そのいずれしかない」と言ったらしいのですが、その気持ちはわかるような気がします。
非常に多い作品数から考えると42歳という遅いデビューにも驚かされますが、清張が昭和の時代を描いた作家として最重要であることは間違いありません。もし北九州にでかける機会があったときには、ぜひ、記念館に足を運んでみてください。
清張以外にも、火野葦平佐木隆三平野啓一郎など、北九州出身の作家は多いようです。今回は時間がなくて訪れることはできませんでしたが、北九州市立文学館もあるそうです(http://www.tansei.net/kikanshi/no24/kitakyushu/kitakyushu.htm)。