【自伝】「学魔」とは…

高山宏、『超人 高山宏のつくりかた』(NTT出版
すごいタイトルである。普通の人間には思いもつかないであろうが、「高山宏」(カギカッコ付き)はまさに「超人」なので妙に納得してしてしまう。その高山氏が自分の研究などを振り返ってまとめた半生史。

超人高山宏のつくりかた (NTT出版ライブラリーレゾナント)

超人高山宏のつくりかた (NTT出版ライブラリーレゾナント)

高山宏氏は、東京都立大学(現在の首都大学東京)教授を経て、現在は明治大学国際日本学部教授。専門は17、18世紀を中心とする英文学。著書・訳書には膨大なものがあるので、各自で図書館やアマゾンなどで検索してください。

本書では、とにかく、今、学生である皆さんにはとても信じられないであろう半生が語られる。そんな皆さんを教える立場になってしまった私にも、氏の読書量はとうてい信じられない。まずは、「いったい、どうやって時間を工面しているのだろうか」と凡人にしか思いつかないような疑問を強く抱いてしまう。嫌になりますね…。

本書で語られる私生活のエピソードもすごい。噂では聞いていたものの、とうてい信じられなかった。それがすべて真実であったなんて…。当事者は大変なのだろうと思うものの、氏の人並み外れたバイタリティの源を覗き込んだような気がする。とてもマネできない。まさに「超人」である。

しかしながら、改めて驚かされるのは、この世代の人たちの早熟さ。大学時代の挿話などを読んでいると、私の感覚ではとても大学生が思いつけるようなものでない。自分の卒論を思い出してみると、あまりにもその発想の保守性(ある意味で「健全さ」と言えるかも)が嫌になってくる。『アリス狩り』(青土社)に収録されているメルヴィル論が学部の卒業論文とは…。皆さん、信じられますか?(この本についてはいずれ紹介します。)まあ、こんな卒論が出てきたら、教員としては、嬉しいどころか、ひたすらに恐いけど。

ご本人も繰り返し書いているように、高山氏は普通の感覚とは随分と違う視点から「英文学」について考えていることがよくわかる。私も、「観念史(ザ・ヒストリー・オブ・アイディアズ)」を含め、自分の中に取り込むにはまだまだ時間がかかりそうだけど、氏の著作を通していろいろな知らないことを教えられた。正当に「文学」だけを論じようとする傾向の英文学界においては貴重な存在であることは間違いない。

たぶん、『アリス狩り』を読むには、読者の側にいくつかの前提が必要だろう。まず独特な文章の雰囲気に慣れること、そしてそれ以上に、前提となる知識が要求されるためか、タイトルに惹かれて初めて学生時代に読んだときにはよくわからなかった。
それと比べると、読者に語りかけて来るような本書は、随分と読みやすい。他の高山本を読む前に、まずは本書を読んでおくのがよいだろう。

それと巻末に添えられた「5冊も読めば立派に魔族―ブックス・イニシエーション」というリーディング・リストは、英文学の枠を超えたものであるが、これから先を考えていくには大いに役に立つものである。こんなリストを参考に本を読んでいくことのできる皆さんは幸せである。

不幸にして、私は高山氏の授業を受けたこともなければ、学会や講演などでお会いしたこともない。チャンスは何度かあったのだけど。いろんなところで、いろんな人に、いろんな噂を聞くので、興味津々なだけに本当に残念である。とにかく、一度、直にお話を聞くことができればと切に願っている。ちょっと恐いけど…。