【漫画】なぜ、みんなダーシーが好きなのか?

BBCのドラマ『高慢と偏見』が作ったオースティン・ブームは、すでに十数年がたちますが、いったいどこまでいくんでしょうか…。主役のエリザベスをすっかり喰ってしまった相手役のダーシー、というか、コリン・ファース。とうとう、今では、日本のDVDでは「コリン・ファース」の名前が『高慢と偏見』というタイトルの上に一番目立つように添えられてさえいます。

高慢と偏見 [DVD]

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若い世代の女性にとっては、キーラ・ナイトリー主演の『プライドと偏見』の方が馴染みもあるようです。「オースティンを読んだことがある」という1年生に聞いてみると、ほとんどこの映画がきっかけになっているようです。「キーラが可愛い!」という声もありますが、やはりダーシーの方が人気があり、そんな若い世代にとっては、コリン・ファースよりもマシュー・マクファディン演じるダーシーの方が人気があるようです。

昨年度の非常勤先の学生さんが教えてくれた少女漫画版『高慢と偏見』のことを思い出し、恐る恐る注文していたものが届きました。箱を開けて、表紙を見て思わず引いて、それでも少しだけ中味を読み始めました。

もちろん、漫画ですから、「原作の漫画化」というよりは、すっかり「翻案」(小説などの原作の筋や内容をもとに違う物語に改作すること)に近いのだろうと想像していたのですが、意外に原作に忠実になっていました。

「とうとう少女漫画かあ…」と思ったのですが、少し考えてみると、オースティンの作品というのは、どれも少女漫画やハーレクイン・ロマンスの筋書きにはぴったりですね。お互いに惹かれながら、諸々の事情からなかなか歩み寄れない恋人たちを描いた『分別と多感』、想いが残る忘れられない相手との再会を描いた『説得』など、まさにロマンチックな物語にはうってつけのストーリー。あの真面目すぎると批判されることの多かった『マンスフィールド・パーク』でさえ、貧しい家に生まれた少女が裕福な親戚に引き取られて幸せをつかんでいくシンデレラ物語と理解しても決して間違いではありません。

そんなことを考えていくと、今でこそ、オースティンの作品は文学研究の対象として真面目な感じで扱われていますが、同時代の女性たちはこれらの作品を少女漫画やハーレクイン・ロマンスのような感覚で読んでいたんだろう、そんなふうに想像することもできます。もちろん、だから研究対象にふさわしくないというのではなく、むしろ、「このパターンの物語が時代を超えて特に女性たちに好まれるのはなぜか」という非常に興味深いテーマを示してくれます。単純に、なぜ、女性たちはダーシー(あるいはダーシー的存在)が好きなのか? それは、単に現実逃避的なものではなく、この時代の小説の多くが結婚で結末を迎えることと関係しているのでは、などと考えるのは、おそらく私だけではないと思います。

この漫画があなどれないのは、上のような要素が凝縮されたものであるだけに、そんなことを考えるヒントをたくさん与えてくれるところです。漫画好きな人はもちろん、そうでない人も、ぜひ一度は読んでみて、一緒に考えてみませんか。