【漫画】岡崎京子を知っていますか?

前回、漫画を取り上げたので、今回、漫画つながりで紹介したい作品があります。このブログの趣旨からはそれてしまいますが、ついでに書かせてもらおうと思います。

文学の研究とかをしていると、「自分で作品を書こうと思ったことはないの?」と時どき尋ねられます。他人の書いた作品を読んで、それについていろいろと考えるだけではなく、自分で作品を書こうと思ったことは…。
私の場合、答えは「あります」です。ただ、具体的に真剣に取り組んだことはないのですが、書いて表現してみたいことはもやもやあったので、漠然といろいろと考えたことはありました。でも、圧倒的な表現者が同世代にいた場合、そんな淡い思いは吹っ飛んでしまうものです。私にとってのそんな存在は岡崎京子です。
と言っても、彼女は小説家ではなく、漫画家。しかも、少女雑誌を中心に活動していました。最近の若い女性たちが彼女の作品を読むことはあるのでしょうか?

1980年代の刹那的な若者を描かせたら、岡崎京子はピカイチではないかと思います。その頃、東京で高校生や大学生であった人たちにとって、彼女の描く登場人物たちはどれもリアルに感じられるのではないでしょうか。モノに対しても、異性に対しても、遊びに対しても、すべてに徹底的に貪欲でありながら、同時に深いところでは他人とのつながりは避け、結局、最後はひとりでいる、といったような…。

彼女の最高傑作は『リバーズ・エッジ』ではないかと思います。

リバーズ・エッジ 愛蔵版

リバーズ・エッジ 愛蔵版

しかし、この作品、初めて読む彼女の作品にしてはショックが大きすぎるかも。自分の周りにどうしてもうまく合わせることができない違和感。慣れていない人にとっては衝撃が強すぎると思うので、まずは下記の作品をお薦めします。

pink (MAG COMICS)

pink (MAG COMICS)

主人公は22歳の若い女性。昼はOLとし働くものの、夜は売春婦という二重生活。自宅のマンションではワニを飼い、部屋をすっかりジャングルにしようとするものの大失敗。水浸しになって暮らせなくなると、継母の男妾の部屋に転がりこむ。そしてその男の子とつながりが見えてきて…。最後は悲しい結末を予感させる終わり方だけど、生きることの切なさがよく伝わってくる。

岡崎京子の漫画は圧倒的に文学である…。初めて『Pink』を読んだとき、こうして彼女の漫画が自分たちの世代を代弁してくれるのなら、わざわざ自分が小説などを書くまでもない、そうはっきりと感じました。それ以来、一度も「自分で小説を書いてみよう」なんて思ったことはありません。それぐらいの凄さが私には感じられました。

実は、岡崎京子は1996年に交通事故に遭い、その後は漫画を描くことができないままです。事故のニュースを聞いたとき、大きなショックを受けましたが、もう15年くらいが経つんですね。それ以来、いまだに新作を読むことができず、彼女の作品は相変わらず80年代で止まったままです。もし彼女が現在の社会について漫画を描いたとしたら…と考えると本当に残念でたまりません。早く回復され、新作を届けてもらえる日が来るように祈るのみです。

もし読んだことがないのなら、一度、岡崎京子の作品をどれでもいいので読んでみてください。きっと、ずーんとくる何かがあるはず、です。読む前と読んだ後での世界観が変わるはず。一度は読まないと損しますよ。