【文化研究】「俺たち」と「あいつら」
前期に「カルチュラル・スタディーズ」という講義を担当した。あらゆる文化現象の背後には、見えない社会の「抑圧」が働いていることを見抜いていける視点が得られるように心を砕いたつもりだったが、やはり専門ではなかったためか、大いに散漫になってしまったことを反省しているところ。とにかく、気づかないうちに自分も社会的偏見にとらわれてることに気づいてもらえれば十分かと思う。
先日、前期のレポートの課題のひとつとして、映画『さらば青春の光』を観た。
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この映画は、The Whoというイギリスのロック・バンドのアルバム『四重人格』の歌詞をもとに物語を作成したものである。そのため、ひとりの学生が「The Whoを聴いています。ギターが格好よかった」といった感想を書いてくれている一方で(嬉しいコメント!)、ロックの嫌いな人にはうるさいだけのBGMだろうと思う。
- アーティスト: ザ・フー
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この映画の鍵となるのが、自分たちの存在意義を確認するのに「他者」を利用し、いわゆる「我々」と「奴ら」に分けて考えているところ。傍目には、モッズとロッカーズの区別など些細なものに思えるにもかかわらず、当人たちは真剣に差別化を図る。そして、ブライトンの暴動前には「俺たちはモッズだ!」の大合唱が街に響き渡る。日常生活の閉塞感を解消するためのある意味での二重生活(昼間は人に使われるが、夜にスクーターに乗れば王様になれる)こそが、彼らのプライドを支えるものであり、唯一つのよりどころにもなっているのである。だからこそ、すべてを失った主人公は、「自分」を取り戻せるのではと期待してブライトンに行くものの、そこで目撃するのは憧れていたモッズのリーダーの「日常」の姿であった(ホテルのベルボーイとして使われるだけ)。彼らの閉塞感やイライラがよくわからないだろうか。
イギリスの若者文化の先駆的な研究書となったのが下記の本。モッズやロッカーズをはじめ、イギリスの若者たちが群れてきた歴史について概観することができる。そこから見えるのは、競争社会を抜け出ることができるほどの才能を持たない労働者階級の若者たちの生き方。
- 作者: ジョンサベージ,Jon Savage,岡崎真理
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いずれにしても、アフタヌーン・ティーやカントリー・ハウスやジェントルマンだけが「イギリス」ではなく、『さらば青春の光』やケン・ローチ監督らが描く世界もまた「イギリス」なのである。価値観を相対化するためにも、授業を通して、そういう世界についてもどんどん紹介していきたいと思っている。