【雑考】京都の魅力

日本英文学会のシンポジウムの打ち上げを口実に、関西のお二人と飲むために京都に行ってきました。一乗寺の美味しいお店に連れて行ってもらいました。今朝方、京都は台風で雨風がひどかったのですが、帰宅してみると、今度はこちらが同じような状況になっていました。台風と一緒に移動したようです。
とても勉強されているお二人なので、よもや話でさえも大いに参考になるところがあります。小説の読み方や作品分析に対する姿勢など改めて考えさせられ、他の人はわざわざ京都まで飲みに行くのか…と思うかもしれませんが、「わざわざ」なんて感覚はまったくありません。何かと東京に一極集中しがちな日本ですが、英文学会、特にイギリス小説関係について考えた場合、関西にはすぐれた研究業績を残されている研究者がたくさんいます。また、京都というのは独特の磁場を持っているようで、小説読みとして、京都大学若島正先生、佐々木徹先生、奈良女子大学横山茂雄先生など、東京とはまた違う感じの小説の目利きもいらっしゃいます。面白いイギリス小説を読みたければ、この三名の誰かの名前を打ち込んで検索すれば問題なく見つけることができるでしょう。いわゆる大道からは外れながらも、個性的な面白さを備えた作品を。例えば、横山・佐々木両先生が仕掛けている「20世紀イギリス小説個性派セレクション」のシリーズはワクワクしながら続刊を楽しみにしているところです。既刊の2冊については近いうちに紹介します。
京都は日本でも最大の観光名所なので、今日も、台風の中、多くの外国人観光客を見かけました。ただ、私の場合、京都の愉しみはいわゆる古寺などの観光名所ではなく本屋さん、中でも古書店巡りが最大の目的なのです(これは京都に限らず、どこに行っても同じなのですが…)。中でも京都は大好きな街のひとつで、実は、年に数回は口実をつけて訪れています。
京都の本屋といえば、まず恵文社一乗寺店を挙げなくてはいけません。最近では、若者向け観光ガイドブックに必ず掲載されているのですでに知っている人もいるかと思いますが、本・CD・雑貨のセレクトショップのはしりとして有名な本屋さんです。特徴的なのは本の並べ方。従来からありがちな作家別・ジャンル別ではなく、テーマ別にさまざまな分野の本が並べられていて、本棚を眺めていると思いがけない発見をすることがあります。それが楽しみで、中心地からは離れているのですが、京都に行ったときには必ず寄るようにしています。今回は、お店でながれていた下記のCDを購入しました。"Je T'aime... Moi, Non Plus "のカバーにやられました。BGMの流れる本屋さんというのも珍しいですよね。個人的には、このお店にあるような書棚を図書館にも作りたいと考えています。サイトもありますので、興味のある人はホームページをのぞいてみてください。必ずや面白いものが見つかると思います(http://www.keibunsha-books.com/)。

apart my surround(紙ジャケット仕様)

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その他には、マンションの一室が改造された御幸町通りのアスタルテ書房白川通りのガケ書房といった個性的な古書店もありますし、予約しないと入れないお店もいくつかあります。到底、一日ではまわることができないほど、古書店は充実しています。
あと、喫茶店。京都のコーヒーといえばイノダですが、他にも、スマート・コーヒー、六曜社、インパルス、新々堂など、美味しいコーヒーを飲むことができるお店がたくさんあります。
そんな京都の魅力をひと言でまとめれば、「古さと新しさの混在ぶり」だと思います。古都として、町屋、古寺社、舞妓はんといった古くから変わらないものがあるかと思えば、恵文社一乗寺店のような先進的な書店があったり、高木正勝のような音楽を生んだりもします。そうそう、「くるり」も京都でしたね。そういう点で、イギリスと非常に似たところがあると思っています。ツイードのジャケットに蝶ネクタイの伝統的な紳士ファッションがある一方、ポール・スミスやオズワルドのような斬新なファッションが出てくる感じ。そこが京都の魅力だと思います。他の街にはなかなかないですよね。
ただ、私が京都に通うようになって十数年になりますが、さすがに街も大きく変わりつつあります。梶井基次郎の『檸檬』で有名だった河原町通りの丸善がなくなったのは数年前(そこに現在はカラオケ屋が入っているのが時代の流れを考えると象徴的)。BALのVirgin Megastoreもなくなりました。ここはワールド・ミュージックの品揃えが他とは違って個性的だったので好きなお店でした。そして、いよいよ京都の看板のひとつであろう阪急河原町店も8月22日をもって閉店だそうです。デパートの時代の終焉として象徴的ですね。そして何よりも残念なのは、キリンが出していた京都の地ビール「1497」がなくなったこと。私にとって、京都を訪れる楽しみのひとつが確実になくなってしまいました。
そんなことはありますが、京都の街には、訪れるたびに発見できる新しい魅力があります。ふと迷い込んだ小路に古い喫茶店があったり、思わぬところに新しい古書店ができていたり。いつか住んでみたいと思う街のひとつです。