【雑考】洋書バーゲンフェアに行ってきました
またまた久しぶりの書き込みになります。忘れていたわけではないのですが、尋常ではない忙しさに、風邪をこじらせてしまったりもしていて、なかなか書けないでいました。今回も「雑考」になってしまいます。
昨日、18世紀の英文学関係の研究会で専修大学の神田キャンパスに行きました。そのついでに洋書古書店の崇文荘書店に寄ったのですが、「洋書バーゲンフェア」が開催されていることを聞いて、あわてて神田小川町の東京古書会館に行ってみました。あまり時間がなかったのでゆっくりはできなかったのですが、結構な人出もあり、活況とまではいかなくとも、それなりに本も売れているようでした。
河野書店や下井草書房などの英米文学関係では馴染みのある東京の古書店をはじめ、13もの古書店が出品していて、展示場は洋書の棚でいっぱい。風邪のために大きめのマスクという怪しげな恰好で、それでもわくわくしながら書棚をチェックしました。もっぱら、英文学とイギリスの歴史関係しかチェックはしなかったのですが、目についたのが「生田耕作」の蔵書をばら売りしている棚の一列。さすがにフランス語の原書が大半ながら、中にはハックスリーなどのイギリスの小説や他にもミステリーなどもあり、それなりに興味深いコーナーでした。ただ、蔵書というのは、誰のものでもまとまってこそ意味があるので、こうしてバラで処分してしまうと随分と価値が下がってしまうもの。やはり一冊の値段は随分と安くて「そんな値段でいいの?」というものもありました。
たぶん、これを読んでくれている学生・院生の人たちは「生田耕作」といわれても「それ、誰?」だろうと思うので簡単に紹介を。在京都のフランス文学者で、バタイユ、マンディアルグ、ジュネ、セリーヌなどの翻訳を通して、澁澤龍彦などとともに、フランスの異端文学の日本への個性的な紹介者のひとり。京都大学教授でありながら、『バイロス画集』の猥褻裁判を機に大学とも対立して辞職する。以後は、東京のジャーナリズムに迎合する雰囲気に反発し、京都を拠点に執筆活動を続けた孤高の文人。京都は、東京からいい感じで距離感があるので、「いい感じ」の個性的な文人や研究者が出てくる。僕が京都に憧れる理由のひとつには、生田耕作や稲垣足穂(「一千一秒物語」なんと、今では英語テキスト会社になってしまった金星堂から出版!)のような人たちが出てくる土壌があるから。英文学でも、関西には個性的な研究者が今でもいらっしゃいます。
僕の世代にとっては、やはり生田訳といえばセリーヌの『夜の果てへの旅』(中公文庫)。この自伝的小説を初めて読んだときに感じた、極限の絶望の果てを描いた圧倒的な迫力は今でも忘れ難い。これはイギリスの作家には書けないタイプの作品だと思うので、未読の人は、ぜひ。
- 作者: セリーヌ,Louis‐Ferdinand C´eline,生田耕作
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2003/12/01
- メディア: 文庫
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私の方は、最近は買い控えをするようになってきたので、200円くらいのペーパーバックを数冊買いました。そしてレジに持って行こうとしたとき、目に留まったのがOsbert Sitwellの自伝5冊。全巻セットでたったの1,200円!(こんなことで興奮するのは私だけかもしれませんね。)ひもで縛ってあって中味は確認できなかったものの、そのまま購入しました。Osbertを含むSitwell家の子どもたち3人は、第1次大戦後のイギリスの有名なエキセントリック(「変人」と訳すのとはちょっと違うのでそのままカタカナで)で、文学や美術の後援を熱心にやった人たち。たぶん、一番有名なのは詩人である姉のEdith Sitwellでしょうか。まあ、Evelyn Waughなどとも親しかったと聞けば、一筋縄ではいかない人たちだということは察してもらえるでしょう。
The Sitwells: And the Arts of the 1920s and 1930s (Literary Modernism Series)
- 作者: Honor Clerk,Jonathan Fryer,Robin Gibson,John Pearson,Sarah Bradford,National Portrait Gallery (Great Britain),Edith Sitwell,Osbert Sitwell,Sacheverell Sitwell
- 出版社/メーカー: Univ of Texas Pr
- 発売日: 1996/09/01
- メディア: ペーパーバック
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こちらに移ってくれば古書の展示会などにも頻繁に行ける!なんて思っていましたが、実に久しぶりの機会でした。やっぱりあの雰囲気はいいですね。