【紹介本】『動物農場』を読んでみよう!

久しぶりの書き込みになりました。卒論の締め切り(もちろん私ではありません)、大学の紀要原稿の締め切り(こちらは私です)が立て続けにあったこともあり、授業の準備も含め、ここ1,2週間は怒涛のように流れ去っていった感じで、自分でもあまり記憶がありません…。
卒論は、担当の9名が全員無事に提出できました。審査はまだですが、ひと安心ということころです。内容も、オーウェル1984年』論、ベアトリクス・ポター論、「モンスター」論、オースティン原作の映画論ふたつ、『高慢と偏見』と野上彌生子『真知子』の比較論(ここまでが日本語)、あとは、Jean Rhys, Wide Sargasso Sea 論、Lewis Carroll, Alice's Arventures in Wnderland 論、Jennifer Johnston, The Old Jest 論(以上英語)、といったバラエティーに富んだものとなりました。テーマがあまりにも散漫な拡散ぶりになっているようで、来年度は全体的に少しは「小説」にしぼっていこうかと反省。でも、恥ずかしながら『アリス』をじっくり読んだも初めて、ジョンストンに至っては今回の指導で初めて読みました。学生さんが私の知らないことを扱ってくれると、こうして自分の勉強になるので、それはそれで感謝することしきり。特に英語で卒論を書いた3人は在外研究中のネイティブの先生と一緒に指導するかたちになり、やっぱり私と視点が違うから、それもいろいろと勉強するよい機会になりました。来年も、どんな知らない作品に触れられるかが楽しみです。
そんな中、最近、いくつかの授業でオーウェルの『動物農場』を扱いました。DVDを観て、作品の解説、原作との違いの説明などをした後、少し意見交換を行うのですが、想像以上にインパクトがあったようで結構いろいろな意見が出ました。前期の講読のときにも出た意見ですが、「タイトルのイメージと内容が違いすぎる…」というのが今回も出ていました。これは著者のオーウェルも考えた効果だと思いますが、確かに、「おとぎ話」という副題と内容とのギャップはすごいですよね。
この作品について一番興味を惹かれるのは、ナポレオンでも、スノーボールでも、ボクサーでも、ベンジャミンでもなく、スクィーラー。この宣伝係の「白を黒と思わせる」というレトリックはすごいと感心しています。彼の「ことば」を読んでいると、「歴史」だけでなく、「事実」でさえも作られるものであるということがよくわかってきます。メージャー爺さんの「ことば」は動物たちを解放に向かわせましたが、スクィーラーの「ことば」は動物たちを抑圧していきます。同じ「ことば」が使い方次第で「自由」を獲得するものにもなり、「自由」を奪うものにもなってしまう危うさがとてもうまく描かれています。
そんな点について考える際に参考になるのが下記の本。ちょっと語り口が気になりますが、この作品を考えるのに必要な点はすべて網羅していて、しかもそれがわかりやすく説明されています。

『動物農場』ことば・政治・歌 (理想の教室)

『動物農場』ことば・政治・歌 (理想の教室)

同じ著者による下記の新訳と合わせて読めば、私たちがいかに「ことば」と付き合っていくべきかについて考えてみるよい機会になると思います。
動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)

動物農場―おとぎばなし (岩波文庫)

オーウェルについて書くたびにいつも出てくる言葉ですが、「やっぱりオーウェルはすごい」と思います。