【雑考】「仕事」について考える

今日の『朝日新聞』の読書コーナーに、以前でブログで紹介した京都の恵文社一乗寺店という本屋さんの店長の記事が載っていました。これまでにも色々なメディアで取り上げられているので、別に改めて驚くこともないのですが、大手の新聞に笑顔の店長の写真が載っていると何となく不思議な感じも。でも、今のように、こうして人々の興味が細分化してしまうと、本来は「サブカルチャー」だったものに「主流派」がすり寄ってくるというのは仕方ないのかも。現在のような状況は、本屋好きにとっては、例えば、ジュンク堂書店やブック・ファーストのような大型書店と恵文社一乗寺店のような個性派書店とを必要に応じて使い分けることができるのは確かに嬉しいこと。でも、いわゆる「町の本屋さん」が激減している状況を考えると素直には喜べないところもある。私の住んでいる鎌倉にはまだまだ頑張っている本屋さんがいつくかあり、いつも散歩ついで寄るようにしている。そして、そこで見つけた本はできるだけそのお店で買うようにしています。定期的に地元の本屋さん散策をしてみると、そのお店の意外な個性もわかって面白いかも。
今回は、イギリス関係ではないのですが、これから就職活動が本格化する今の3年生と、いよいよ心構えの時期に入る2年生に特に読んで欲しいなあと思う「仕事」がらみの本を紹介します。
先の記事を読んでいて、店長さんがバイト→正社員→店長になってきたことを読んでいると、レイモンド・マンゴーの『就職しないで生きるには』(晶文社)というのを思い出しました。

就職しないで生きるには

就職しないで生きるには

ぶらぶらしながら楽して何もしないで生きよう、というのではない。就職して自分の時間を切り売りすることで生活していくのではなく、自分の興味のある分野で起業して自立してやっていこう、という勧め。この本の影響を受けた人は意外に多いようで、いわゆるセレクトショップを経営して成功した人たちの回顧録にはよく名前の出てくる本のひとつです。一見、世間からはみ出したポーズを取りながら語られたビジネス本といえるでしょう。
この本にインスピレーションを受けて作られたのが、同じ晶文社のシリーズ「就職しないで生きるには」の10冊。ラインナップは次の通り。1.早川義夫『ぼくは本屋のおやじさん』、2.橋本憲一『包丁一本がんばったンねん』3.長本光男『みんな八百屋になーれ』、4.岩永正敏『輸入レコード商売往来』5.津野いづみ『ふだん着のブティックができた』、6.加藤則芳『ぼくのペンションは森のなか』、7.河田はな絵『花屋になりたくない花屋です』、 8.長谷川義太郎『がらくた雑貨店は夢宇宙』、9.増田喜昭『子どもの本屋、全力投球』、10.油井昌由樹『アウトドアショップ風まかせ』。ここではシリーズの1冊目を下記に載せておきます。
ぼくは本屋のおやじさん (就職しないで生きるには 1)

ぼくは本屋のおやじさん (就職しないで生きるには 1)

私が実際に読んだのは、早川義夫(ミュージシャン‼)とアメリカの50〜70年代のポップスのリイシュー企画で後に有名になった岩永氏のものだけだけど、本当にいろいろな商売があるんだなあと思う。ただ、古い本なので、いわゆるネット時代に対応していないアナログ時代のもの。それだけに、現在の大学生世代には違和感があるかもしれないので、そういう場合には、平凡社から出ている「太陽レクチャー・ブック」の『〜の仕事』シリーズをお勧めしたい。「ミュージアム」「建築家」「アート」「本屋さん」「北欧インテリア・デザイン」「フォトグラファー」「グラフィック・デザイナー」の7冊が出ている。その分野で活躍中の若手・中堅の人たちが、業界のシステムなどについて話したことをそのまま載せてあり、等身大でその業界のことを理解することができる。ここでは私も読んだ「本屋さん」を紹介。恵文社一乗寺店の店長さんもここで話しています。
本屋さんの仕事 太陽レクチャー・ブック005

本屋さんの仕事 太陽レクチャー・ブック005

あるいは、「起業がらみのもっと個人的な話が聴きたい」という人には、DAI‐X出版が「仕事と生活ライブラリー」というシリーズがあります。1.皆川明(デザイナー)『ミナを着て旅に出よう』、2.相原一雅『カフェ三昧モダン三昧』、3.松浦弥太郎『最高で最低の本屋』、4.福田春美『ファッションディレクター言葉と心と夢』、4.いがらしろみ『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』、5.中原慎一郎(インテリア)『僕らのランドスケープ』、6.蜷川実花(写真家)『ラッキースターの探し方』の6冊が出ています。ここでは以前のブログでも触れた中目黒のカウ・ブックスの松浦氏のものを紹介(これは、今は、集英社文庫にも入っています)。
最低で最高の本屋 (仕事と生活ライブラリー)

最低で最高の本屋 (仕事と生活ライブラリー)

実は、身近には教員や公務員が多いためか、私にはそもそも会社勤めという発想が希薄でした。何となく教員になりたいと考えながら大学に進み、その後、興味を持ったイギリス小説を勉強したいと思って大学院に進学しました。そのため、いわゆる就職活動をしたことがありません。院生時代には、「就職できるのだろうか」という将来に対する不安感は常に拭い去りがたく、口には出しませんでしたが、就職して働き始めた友人たちを横目に見ながら、さすがに不安いっぱいの気分で過ごしていました。そのときに読んだのが、先のマンゴーの本。そして、つられるように、早川氏や岩永氏の本を読んで、「そうか、そういう生き方もあるんだ」と随分と気が楽になったことを覚えています。その後、幸いなことに、私はたまたま四国の大学に就職が決まりましたが、先に紹介したような「主流からは外れた生き方の魅力」をこれらの本から学んだことは、その後のものの考え方を決めたという点で大きいと今でも思っています。
ここに紹介した本は、読んでもらって、「就職だけにこだわることはない。それだけが人生の意味のあることじゃない。こういう生き方もいいぞ!」と考えるようになって欲しい、というつもりで挙げたわけではありません。やっぱり、社会的にだけでなく、自分にとっても、どんな職場で働くのかは大きな意味を持っているというのが、認めたくはありませんが事実としてあります。また、シニカルに言えば、こういう本を書く人は「成功した人」ばかりなので、その分野で特別な才能があった人である場合も多いのが事実でしょう。反対に、普通人に参考になるのは「失敗した人」の話なのかもしれませんが、それはなかなか聞くことはできません。だから、似たような生き方を目指す人は、むしろ読まない方がいいのでは、と思わないでもありません。怪我をしないように。
これらの本は、就職することは自分にとって本当に大事で、どの会社に就職するのかについては本当に真剣に考えている人たちにこそ読んでもらいたいと思って紹介しました。就職について真剣に悩んでいる人にこそ、世の中には自分とは違う価値観のあることを知ってもらえれば、と思います。自分のものと異なるものを無理に理解する必要はまったくありません。ただ、生き方や考え方の違う人がいるんだ、と知るだけでいいのです。そのことがわかれば、自分の仕事選びだけでなく、その後に会社という組織の中でいかに「個性的」に働いていくのかを考える上で大いに参考になるのではないか、と、シューカツの経験のない私は考えているからです(やっぱり説得力はないですかね?)。