【エッセイ】「永遠の少年少女のための文学案内」
今年度の授業ではディケンズの『オリヴァー・トゥイスト』をよく取り上げたことや、ユーリカ・プレスから出た復刻「子どもの文化史」の日本語解説を書いたこともあって、「子ども」は今年度の私の個人的なテーマでもあった。ただ、この「子ども」というのは、今の私たちはごく普通にある種のイメージを持つが、実は、そんな考え方に至るようになったのは18から19の世紀の変わり目のあたりという、意外に最近のこと。じゃあ、それまではどうだったのかというと、まだ十分に成長していていないだけの「小さな大人」と考えられていた。この「大人/子供」の境目を区別にしない考え方は、今とはまったく違う接し方で「子ども」を扱っていたことになる。大人に混じっての飲酒・喫煙は当たり前、今だとPTAの人たちが顔をしかめるような猥談なども子どもたちの前で平気でやっていたという。子どもの見方の変遷について興味のある人は、まずは必ず参考文献に挙がるフィリップ・アリエスの『〈子供〉の誕生』を読んでみるといい。
- 作者: フィリップ・アリエス,杉山光信,杉山恵美子
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ディケンズの作品には読者の同情を一身に集めるような「子ども」がたびたび登場する。彼の子ども観がいわゆるロマン主義的なものに強い影響を受けていることは、松村昌家先生の『ディケンズとその時代』(研究社出版)の『オリヴァー・トゥイスト』を論じたところが詳しいのでそれを参考にしてもらうとして、現代になると、これとは正反対の子どものとらえ方をした作品も書かれるようになってくる。個人的に強烈な印象を持っているのは、ウィリアム・ゴールディングの『蝿の王』。無人島に不時着した子どもたちが、「文明」から遠く隔てられたこの島で「野蛮」に堕していく姿は、理屈抜きのおぞましさがある。『蝿の王』は近いうちに読み直したいと思っているので、また改めて紹介したい。
「子どもって、そんなに純真?」と考えてしまわないわけでもないが、たまには「永遠の少年少女」になってしまって文学作品を読み直してみるのもいいんじゃないか、そんな気分にさせてくれる本。お勧め。