【旅行記】アメリカ人の見たイギリス

ノエルかえるさん、コメントをありがとうございます。時どき、ブログを読ませていただいています(「ノエルかえる不恵留」を書いていらっしゃいますよね?)XTCの歌詞については興味ありますが、ブログを読ませてていただく限り、私などまだまだ勉強不足ですので、少しお時間をいただければと思います。また、ACROPOTAMIAさん、小説の情報をありがとうございます。こちらも入手して読んでみようかと思います。こうしてコメントをいただけると励みになります。ありがとうございました。
この9月に、大学の授業のひとつでイギリスに引率旅行にいってきます。恥ずかしながら、私にとっては久しぶりのイギリスなので、ちょっとドキドキしています。イギリスの小説のゆかりの地を訪ねるということで、17名の学生と一緒に、ロンドン、ウィンチェスター、バース、チョートン、ソールズベリー、オックスフォード、ロンドンといった旅程で、途中、レーコックなどの小村にも寄ります。まだまだ先だと思っていましたが、気がつくと2ヶ月後には出発です…。
そんなこともあり、少しずつイギリス関係の本も読んでいるのですが、その多くが、イギリス礼賛のものが多く、意外に参考になりません。でも、今回のような機会には、いわゆる「雑学」のような知識も必要になるので、ちょっと頑張っているところです。そんなとき、思い出したのが、十数年前に在外研究でイギリスに行ったときに流行っていた下記の旅行記です。翻訳が出ていたので、今回はそちらで読みました。

ビル・ブライソンのイギリス見て歩き

ビル・ブライソンのイギリス見て歩き

「あとがき」にもありますが、この本、当時は本当によく売れていて、イギリスの本屋のどこにでも平積みにされていたのをよく覚えています。イギリス人は「伝記」が好きだというのはよく言われますが、それに負けず劣らず、「旅行記」も大好きな人たちだと思います。昔から「トラベル・ライティング」の伝統はあり、岩波書店からもいくつか全集が出ていますし、ダニエル・デフォーやウィリアム・コベットの国内旅行記もペンギン版で簡単に入手することもできます。そういえば、今日の非常勤先の授業@戸塚でも話したんですが、デフォーの『ロビンソン・クルーソー』やジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』も、主人公自身が書いた「旅行記」という体裁で発表されているのを思い出しました。自分の知らないところに出かけた人の話を聞きたいというのは、時代や国を問わない好奇心が人間にはあるということなのでしょう。
ビル・ブライソンの本書は、彼がジャーナリストということもあり、わかりやすい文章で、しかも普通の旅行者の目線でもって書かれたものなので、資料的な価値というよりも、「そうそう、そういうことってあったよね」と、多くのコメントに相槌を打ちながら読み進める感じです。ブライソンの旅を追いながら、自分のイギリスでの経験を重ねて思い出していく、そんな感じ。例えば、食事の作法について。

 それにみんな私と同じような行儀作法で食事をする。このことはとてもスゴイことだ。というのは私は左ききなので食事時にはいつも母に叱られていた。アメリカ人は左手でフォークを持ち、食べ物をそれで押さえながら右手のナイフで切る。それからおもむろに右手に持ちかえて口に持っていく。この所作はまったくわずらわしくて奇妙なものだ。ところがある日突然、全国民が私と同じやり方で食事している国が出現したのだ。

確かに、イギリスの人たちには、ナイフとフォークを見事に使う人たちが多いのは事実。私は手先が不器用な方なのですが、なぜかこれだけは割とすぐに上手に使うことができるようになりました。周りにいたイギリス人にもほめられたくらい。ところが、イギリスの旅行会社が主催するツアーに参加したとき、親しくなったイギリス人の老夫婦が、なんとトースト(日本のとは違って薄いやつ)さえもナイフで切って、フォークで食べているのには驚きました。いやあ、すごいなあ、と素直に感心したことを覚えています。
アメリカ人のイギリスに対する不満というのはたくさんあるようで、やっぱり、感覚が近い分だけその差異が気になるのでしょう。院生時代に参加したケンブリッジであったサマー・セミナーに来ていたアメリカ人は、なぜか私のことを気に入ってくれたようで、毎晩、パブに誘ってくれたので、よく連れだって出かけました。私はビターが大好きなので、それをちびちびやっていると、その隣で、その人はラガーに氷を入れて飲んでいる。「ビールに氷を入れるの?」と聞くと、その人、胸を張ってこう言い放った。「当たり前だよ、もちろん、入れるさ。ガンガン入れるよ。イギリスに来てからは、何もかもがぬるいから、そうでもしなくちゃ。何でも氷を入れてもらう。ジュースだって、ビールだって、何だってそうさ」とニヤニヤ。今では多くを忘れてしまったが、この人はいつもイギリスの悪口を言っていた。例えば、当時、流行っていたロックバンドについて、「オアシスの唄の英語はわかるけど、ブラーのはよくわからん」とか。でも、面白いのは、それがとても楽しそうだったこと。なーんだ、やっぱりイギリスが好きなのね、とわかってみると、余計、この人と話をするのが楽しくなったのを覚えている。この本の最後のところに次のような言葉がある。

 郵便を出したり、散歩をしたり、テレビを見たり、本を買ったり、ちょっと一杯やったり、博物館へ出かけたり、銀行を利用したり、迷子になって助けが必要になったり、そして丘に立って眺望を楽しむとき、これ以上の国はない。

よくわかるなあ、「散歩」「本屋」「パブでちょっと一杯」「博物館や美術館」「眺望」については、私もイギリスならではの面白さが絶対にあると保証できる。今回の引率旅行では、参加した人たちが自分なりのそんな「楽しさ」を見つけてくれたらいいなあ、と思っています。私もちょっとした散歩と、古本屋めぐりと、パブめぐりを楽しみたいと思います。