【子供向け物語】白人作家の描くアフリカの少年の物語

何だかあわただしい8月になってしまい、このブログも更新することなく、いつの間にか9月になってしまいました。9月5日からは予定通りに研修旅行に出かけ、帰国してすぐにオープン・キャンパスなどがあり、今年は本当に夏休みがない感じです。
Yoshiさん、またまたコメントをありがとうございます。チップスにべっとりヴィネガーというのは、イギリスでは定番ですよね。私も初めてのときにはギョッとしましたが、慣れてくると結構病みつきになるかも。それから、私の英語も完全な日本風です。ただ、合間合間にアメリカ英語もどきの感じの発音が入るので、余計に耳ざわりだったんでしょうね、きっと。
夏休みも終わりになると、親も子も殺気立ってきます。そう、まだ終わっていない宿題をどうするのか、という大問題が残っているからです。今年もまた、いつもと同じように我が家でもイライラの数日を過ごしました。そんな中、意外に楽しんだのが、下の子が読書感想文のテーマに選んだ下記の本(なぜ、お前が読んでいるのだ…という根本的な問題がありますが、それを尋ねるのは野暮というものでしょう、やっぱり)。

アキンボと毒ヘビ (文研ブックランド)

アキンボと毒ヘビ (文研ブックランド)

  • 作者: アレグザンダー・マコールスミス,広野多珂子,Alexander McCall Smith,もりうちすみこ
  • 出版社/メーカー: 文研出版
  • 発売日: 2010/07/01
  • メディア: 単行本
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アレグザンダー・マコール・スミスは、アフリカのジンバブエ生まれの白人作家で、エジンバラ大学の法学教授でもあった人。子供向けの物語のほかに、探偵小説や学術書など幅広い執筆活動をしています。多くの作品が日本語で読め、翻訳の中ではミス・ラモツエを探偵役にした素人女性探偵シリーズが有名。このシリーズは面白いので、また別の機会に紹介します。
アキンボというアフリカの黒人少年を主人公に、動物との触れ合いの中から「生きること」の意味を考えていくといった感じのシリーズのひとつで、他にもアフリカゾウ、ライオン、クロコダイル、マントヒヒを扱った物語が出ています。子供向けの物語なので、もちろん複雑なプロットや心理描写などはなく、素直に読める感じです。久しぶりに、物語を読む楽しさを味わいました。
ただ、そんな中にも、はっとさせられる言葉が出てきます。例えば、毒ヘビに対して「そんなヘビはいらん。ヘビは悪魔の使いじゃ」と言う村人に、ヘビ園を営んでいるアキンボのおじさんは次のように言います。

「いいえ、それはちがいます。悪魔の使いのヘビなんて、一匹もいませんよ。ヘビは、それぞれに、生まれもった仕事をしているだけなんです。もし、この村からヘビがいなくなったら、作物はみんな、ネズミに食いあらされてしまいますよ。あなただって、知ってるんでしょう?」(94-95頁)

聖書やミルトンの『失楽園』を引いてくるまでもなく、「ヘビ」には特定のイメージがあるために、敢えて好印象を持つ人は少ないでしょう。でも、アキンボのオジサンが言う通り、生物の世界の中ではヘビもひとつの大切な役割を果たしているのです。ただ、いくら言葉で説明しても、そういうことはなかなか伝わらないのですが、アキンボの物語に組み込まれることで、自然にそんなことがわかってくるようになっています。この物語では、アキンボの勇気が試される事件が起こり、それを乗り越えることで彼が成長していくことがテーマになっていることは間違いありません。
でも、ここでの話は、その先にある問題にもつながっていくように思います。まず、多くの人が不快感を抱くのは「ヘビ」だけではないでしょう。また、ここでの経験はアキンボという名前の少年に限定される物語でもありません。生きているものであれば、誰にでも、何にでも当てはまることなのです。つまり、「誰でもそれぞれに生まれもった仕事をしている(=この世界の中で価値あることをしている)のです、ということ。そして、それをきちんと認めてあげること。アキンボが、初めは恐がっていたヘビに慣れてくるとヘビ園での仕事を楽しめるようになったように、周りから距離を置かれているようなものにも認めるべき長所がある、自分たちとは違う「他者」を理解する努力をすること、それらの大切さが伝わってきます。
アフリカ生まれとはいえ、白人である作者がアキンボを通してみる世界は、やっぱりアフリカの少年の見る世界になるのでしょうか。そういうことも考えてみると面白いかもしれません。特に子供向けの物語の好きな人は読んでみると面白いと思います。