【雑考】読書する人々

私が本が好きなのは、読むのもそうですが、本そのものの質感というか、モノとしての本も大好きです。特に、整然とというよりは乱雑に大量の本が並んでいるのを見たり、古書がつまった部屋に漂う独特な匂いはたまりません。また、他の先生たちの研究室や友だちの部屋の本棚をじろじろと見たりするのも好きです。いわゆる本フェチなのでしょう。こんあこと、わからない人にはわからないと思うけど、わかるに人にはわかってもらえるのだと思います。

これに加え、読書をする人を見るのも好きです。なので、本を探したり、雑誌の論文をコピーしたり、といった正当(?)な目的で図書館には行くのですが、そのとき、本を読んでいる人たちの姿を見ることができるのも楽しみのひとつです。もちろん、何を読んでいるのかわかりませんが、別に知りたいとは思いません。ただ、男性でも女性でも、若い人でも年寄りの人でも、誰でもいいんですが、周りのことを忘れて、必死で何かを読んでいる姿に心を惹かれます。特に、黄昏どきの、うっすらと暗くなり始めた図書館で…というのが一番ですね。

ということで、このブログの頭には、Oak Knollという写真家の"On Reading"という、老若男女が読書する姿を撮った写真集の表紙を載せています。この写真集を眺めながら、何を読んでいるんだろう、何を考えているんだろう、そんなとりとめもないことを考えてみるのも、なかなか面白いものです。

そんな私が一番好きな読書する人の写真は下のもの。

本を読むマリリン・モンローですね。モンローが読んでいるのが、なんとジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』。この作品は、イギリス小説の中でももっとも難解とされているもので、おそらく、きちんと理解できている人はいないと言われているほどです。それくらい難しい作品で、例えば、ジョイスの研究会では、『ユリシーズ』のひとつの章の第1行目から第20行目くらいまでを1年かけて研究している…なんて話も聞いたことがあります(本当でしょうか?)。そんな難解な小説を読むセックス・シンボル。何か心惹かれるものがありませんか?

これはポートレートを撮るための演出で、『ユリシーズ』もその小道具では…という疑いを抱くのも自然でしょう。ただ、この写真を撮ったイヴ・アーノルドによると、この本はモンローの私物で、このときも、本当に撮影の合間に読書をしているところを撮ったのだそうです。こんな話を聞くと、モンローのイメージも変わって着ませんか。この写真はポストカードにもなっているし、下記の本にも掲載されています。本を読む女性のポートレートを集めた素敵な本です。

Reading Women

Reading Women

彼女には失礼ですが、あまり知的なイメージのなさそうなハリウッド女優のモンローがそんな難しい作品を読んでいる、そのギャップがこの写真のうま味でしょう。ただ、モンローは、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』が愛読書で、実は意外にインテリだったという話もあります。劇作家のアーサー・ミラーと結婚していた時期もあったので、文学には興味はあったのでしょうか。この写真を眺めながら、いったいモンローは何を考えているんだろう…なんて、なかなか興味のあることだと思いません?

この写真のほかに、アメリカの黒人ロック・ギタリストのジミ・ヘンドリックスがペンギン版のSF選集を読んでいる写真も私のお気に入りです。こういう意外な人が意外な本を読んでいる意外性が良いのです。イギリスの本屋さんが出しているフリー・ペーパーの表紙を飾っていたもので、ずっと大事にしていたのですが、横浜に来るときに処分してしまったのか、どこかにまぎれてしまっているのか、まだ見つかっていません。残念です。

読書をする人の姿はとても魅力的だと思いますが、みなさんはいかがですか? こんな私はやっぱり変?