【映画】イギリス王室のことを知る

本当に久しぶりになってしまいました。この時期、やっぱり忙しい。今年は、大学の校務と学会の仕事のダブルになっているので余計に。のんびりとした更新になってしまいますが、忘れずにお付き合いください。
後期の非常勤@桜上水の授業のひとつを「ことばと階級」というテーマで行ったが、その流れから、映画『英国王のスピーチ』を扱った。授業では詳しく読むことはできなかったが、私の方はシナリオも読んでおいた。

英国王のスピーチ コレクターズ・エディション(2枚組) [DVD]

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「ことば」ということでG・バーナード・ショーの『ピグマリオン』と関連づけようと思ったが、考えてみると、こちらは階級の差や移動の物語ではなく、いかに国王にふさわしいスピーチをすることができるようになるのかの物語だったので、途中から関連づけは無理か、とあきらめてしまった。前者は「ことばと社会」の作品として読むことができるが、後者はあくまでも「ことばと個人」の物語となっていたからである。王室の英語の持つ社会的な位置づけなどがもう少し描かれるのかと思ったのだが。
話の中心は「国民に支持される国王とは?」というテーマを中心にあるのだが、威厳のある父親と有能で器用な兄に対して抱いていた劣等感をいかに克服するのかという、オイディプス・コンプレックスの物語が柱になっているため、バーティの個人の物語であると同時に、観ている人たちにとっての物語にもなり得るという点で多くの人たちに支持されたのであろう。また、ジョージ6世のことばの療法に努めた人物が、オーストラリアの、しかも酒造業者の息子という設定も、植民地や階級の問題をうまく含みこむことに成功する理由になっている。バーティの「個人」的な問題が上手に「社会的」な問題へと広げられていっている。この映画の背景を知るには下記のDVDが参考になった。
英国王のスピーチの真実 ?ジョージ6世の素顔? [DVD]

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それから、ちなみに、この夏にイギリスでよく見かけた左下のデザインは、このジョージ6世が戦時の国民に向けて考案したものだそう。実際には使われなかったものの、よいデザインですよね。

でも、何よりも、個人的には、コリン・ファースはよい役者だなと改めて思った。BBCドラマ『高慢と偏見』のダーシー役のイメージは今でも強いが、その殻を破る役者としてどんどんよくなっていると思う。派手さはないが、何よりも格好いい。
ただ、どうかな?と思うところもあるのも事実。ジョージ6世の兄エドワード8世とその妻となったシンプソン夫人の映画の中での描かれ方。もちろん、物語はジョージ6世の側から見たものになってるので仕方ないのかもしれない。だって、魅力的で話し上手な兄と不器用で話下手な弟の物語となってしまうと、映画を観る人たちの共感を主人公に引き寄せることができないかもしれなのだから、どうしても兄は悪者に描くことになる。果たして、エドワード8世は、あんな感じの人物だったのか? その妻となるシンプソン夫人は?
エドワード8世が国民に退位の理由を告げたのは、次のような有名な言葉だった。

私が次に述べることを信じてほしい。愛する女性の助けと支え無しには、自分が望むように重責を担い、国王としての義務を果たすことが出来ないということを。

いろいろとありそうな理由を並べるのではなく、シンプソン夫人への愛が理由にあることを正直に告げる、このようなコメントをこれから第2次大戦が始まろうとするあの時代に公にすることができるというのはすごいことではないだろうか。そして、そんな男性から愛された女性についても、個人的には映画とは違う印象を抱いていたので違和感があった。兄に対して無断で帰国することを禁じた弟の態度などを考えると、「このジョージ6世の描かれ方はどうよ?」と思わないでもない。個人的には、「国王」の座よりも個人の愛情を優先した兄の方が、「国王」の職務を果たすべく努力をした立派な弟よりも共感を覚えてしまう。エドワード8世を主人公にする映画が作られると、まったく違った印象になるのであろう。それもまた面白い点ではあるが。
イギリス王室を描いた映画はたくさんある。興味がある人は下記の本をガイドブックにDVDを探してみるとよい。

映画を通して知るイギリス王室史―歴史・文化・表象

映画を通して知るイギリス王室史―歴史・文化・表象

ダイアナ妃が亡くなった頃を描いた『クィーン』をはじめ、他にも知らない映画もたくさん紹介されている。