【小説】理系女子のはしり?
恩師を囲んで友人たちとやっている読書会では、ジェージ・オーウェルに続けてH. G. ウェルズを読んでいる。『タイム・マシン』『モロー博士の島』とSFものが続いたので、気分を変えようと社会小説の『アナ・ヴェロニカ』を読むことに。
- 作者: ハーバート・ジョージ・ウェルズ,土屋倭子
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 1989/04
- メディア: 単行本
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ウェルズの描く主人公の女学生もそのひとり。早くから、ヴィクトリア朝時代の保守的で建前主義的な風潮を抑圧的と感じていた彼女は、女性でありながら科学を学ぶことを選び、女性に対する社会的抑圧の象徴である父親や叔母に抵抗する。リベラルな友人たちのパーティに泊まりで参加するかどうかが目下の大問題。結局、パーティに参加できなかった彼女は、年上の既婚者の男性の助けを得て家を離れロンドンへ出て行く。
この小説は、キャラクター造型が類型的で、物語もシンプル、結末もなぜか結婚で女としての幸せを噛み締めるというご都合主義的なものであるが、当時の社会の保守的な雰囲気がよく伝わる小説。19世紀以来、多くの小説のヒロインが求めていたものが、「一人前の人間として扱われたい」という彼女の言葉に集約されている。イギリス小説のヒロインで、実験や解剖にも携わるいわゆる「理系女子」というのも珍しいのでは。