【小説】理系女子のはしり?

恩師を囲んで友人たちとやっている読書会では、ジェージ・オーウェルに続けてH. G. ウェルズを読んでいる。『タイム・マシン』『モロー博士の島』とSFものが続いたので、気分を変えようと社会小説の『アナ・ヴェロニカ』を読むことに。

イギリスでは、19世紀の半ばから労働者の社会的権利意識が高まることで労働運動の気運が高まってきますが、それと呼応するように、19世紀後半から20世紀初めにかけて、女性の社会的権利に対する意識も高まってきます。そして、それが女性の参政権獲得という具体的な目標となり、投票権獲得を目指した運動が激しくなっていきました。女性参詣運動は、合法的手段のみを使用して権利を獲得すべきだと考えた「サフラジスト」と呼ばれた人びとと、必要あれば過激な行動も辞さない「サフラジェット」と呼ばれる人びととに分かれながら続いていくことになる。政治的運動に関わった特に後者の女性たちは軽蔑や冷笑を込められた「新しい女」と呼ばれた。
ウェルズの描く主人公の女学生もそのひとり。早くから、ヴィクトリア朝時代の保守的で建前主義的な風潮を抑圧的と感じていた彼女は、女性でありながら科学を学ぶことを選び、女性に対する社会的抑圧の象徴である父親や叔母に抵抗する。リベラルな友人たちのパーティに泊まりで参加するかどうかが目下の大問題。結局、パーティに参加できなかった彼女は、年上の既婚者の男性の助けを得て家を離れロンドンへ出て行く。
この小説は、キャラクター造型が類型的で、物語もシンプル、結末もなぜか結婚で女としての幸せを噛み締めるというご都合主義的なものであるが、当時の社会の保守的な雰囲気がよく伝わる小説。19世紀以来、多くの小説のヒロインが求めていたものが、「一人前の人間として扱われたい」という彼女の言葉に集約されている。イギリス小説のヒロインで、実験や解剖にも携わるいわゆる「理系女子」というのも珍しいのでは。