【小説】英国のブラック・ユーモア

イーヴリン・ウォー、『大転落』富山太佳夫訳(岩波文庫
イーヴリン・ウォー(なぜかフルネームがしっくりきます)はイギリスの20世紀の小説家。ちなみに男性です。

大転落 (岩波文庫)

大転落 (岩波文庫)

ウォーといえば「ブラック・ユーモア」というイメージが強く、読んでいてドキリとさせられる作品が多いけど、この小説は、主人公ポール・ペニフェザー(名前がすでに皮肉的ですよね)という主人公の人生の衰亡を、感情を交えずに淡々と描いているところがすごい。好き嫌いは分かれそうだけど、この渇いた感じがウォーの文章の特徴でしょう。

主人公は、大学を退学になり、地方の寄宿学校の教師となるも、そこの学生の裕福で美貌の母親と恋仲になり、やがて結婚…と物語は進んでいくのだが、もちろん、ウォーなので、そんなに単純に終わる訳がない。そこのところのどんでん返しは、読んでからのお楽しみに。

主人公のほか、彼を囲む人物たちも面白い。結婚詐欺師や後に刑務所付きの牧師になる同僚の教員たち、学校の用務員もただ者ではない。すべての人物がデフォルメ(人物などの特徴を極端に描き出すこと)されていて、現実感はないものの、それがかえって、当てはまるような人たちへの痛烈な批判となっているのも確か。皮肉屋ウォーの面目躍如といったところ。

「ウォーは面白い」という人は、きっと、良くも悪くも意地悪な感じが…。それは偏見?

ウォーには、他にも、『一握の塵』(山口書店)や『ブライヅヘッドふたたび』(ちくま文庫)などの面白い作品もあるので、いずれ紹介したいと思います。